☆あきらくんBD☆ Mr. & Mrs.

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「美作さん」
「なに?美作さん」
俺が呼び返すとハッとした顔をして肩を竦める。
今でも「あきら」という名前を呼ぶのが恥ずかしいらしく
そう呼ばれて不愉快なわけもなく平然と答えているけれど
休みの日には、からかい半分で名前で呼ばせようとちょっかいを出す。
覗きこむように微笑みを零すつくしの腕をつかむと覗き返して聞いた。
「美作さん、今日は何の日だっけ?」
つくしも当然自分が美作だという意識はある。
だからこそ余計に笑いを浮かべ
「美作さんの誕生日でしょ。ちゃんと覚えてるから」
「へぇ牧野の誕生日なんだ」
「?」
つい俺までつくしを牧野と呼んでしまう。
見つめあって二人で吹き出して
「あきらさんの誕生日」
少し口を尖らせて言うつくしの唇に触れるだけのキスを落とす。
「俺のスキなようにしていいんだよね?」
「もちろん」
少し前から俺の誕生日プレゼントを考えあぐねている彼女に
「その日は俺のスキな用に文句も苦情も一切受け付けない日をくれないか」
俺からのプレゼントの品のリクエスト。
「ちょっとそれじゃいつも文句だらけみたいじゃない」
「まぁ…当たらずとも遠からずだな」
吹き出す俺に少しだけ不満顔を見せながらもコクリと頷き了承を得た。
その代わりゆっくりと睡眠をとって身体を休めてからという条件を出され
目が覚めるまで起こさない宣言をされた。
育ってきた環境が違うから
生きてきた環境そのものが違うから
価値観の相違は仕方ない。
そこに不自由さも不満もお互い感じているわけではないが
俺がつくしを喜ばせたい事が彼女にはもったいないだの贅沢だの
そんな飲み込んで欲しい言葉がポロポロと零れだす。
そのたびに起こる小さない言い合がこの上なくまた楽しくて
こんなにも自分のしてあげたいという好意が受け入れられないものかと
苦笑いをした数、数十回。いやもっとか?
「俺の誕生日だから」
もう一度念を押すと
「わかってるってば」
睨むように見上げる瞳すら愛しくて堪らない。
宣言通り、目覚めるのが遅かった俺は残りの時間が気になるところ。
そして妻との外出にここまではしゃぎ出したくなる俺もどうかと思うが
いつもより時間をかけて服を選ぶ俺を横からクスクスと笑っている。
楽しみは俺だけなのかよと横を見るとそんなことはなさそうだ。
「すごく大事で大好きでもったいないから着れない」
一度として袖を通すことのなかったワンピースを手にとる彼女の顔は俺のスキな笑顔だった。
「なんでそっち行くの。そこで着替えろよ」
「いやよ」
「俺、誕生日だけど?」
忘れているんじゃないかと教えてあげたのに、聞こえないふりをしてその場を離れた。
「今さら…」
妻の着替えを見れないことがそんなに俺は残念なのか?
しっかりしろよ美作あきら。
自分を励ます行為も慣れたもので口笛のひとつも吹いてしまう。
普段は化粧っ気のない彼女が薄らと色をつけジュエリーボックスに手を伸ばしたけれど
もう待てない。
一刻も早く俺のスキなようにする時間をいただきたい。
伸ばした手を握り
「時間切れ」
乱暴にならないようエスコートをして車に乗せた。
「美作さん、どこに行くの?」
「あきらだから」
主張する俺にクスッと笑い
「あきらさん、どこに行くの?」
恥ずかしそうに顔を赤らめて尋ねなおす。
「俺の行きたいとこ」
答えにすらなってない言葉にも優しい微笑みを浮かべお小言の多い口をキュッと結んだ。
パーキングに車を停め指を絡め歩く先にはジュエリーショップ。
店の中へ足を踏み入れるとすぐに
「美作様、お待ちしておりました」
支配人が頭を下げ俺たちを奥の部屋へと招きいれた。
チラチラと俺の顔を伺うつくしとは視線は合わせない。
ビロードのトレイに並べられたネックレスとお揃いのイヤリング
それを見た瞬間に開くであろうつくしの口に先制をうつ。
シーッ。
恨めしそうに俺を見つめながらもまたキュッと口を結ぶ愛らしさ。
細いチェーンに一粒ダイヤ
「普段使いにいいだろ?」
「普段って…」
それ以上言わないのは精一杯の我慢だろう。
「希少性の高いレッドダイヤモンドです」
余計な事をいう支配人をチラッと見ればつくしと同じように口を噤む。
「たまには笑顔で受け取って」
俺の懇願にも近い呟きに小さく吹き出し
「有難う」
向けられた笑顔が俺を幸福へ導く。
トレイから手にとるとつくしの首につけ留め金をつけた瞬間にホッと息を吐く。
イヤリングを手にした瞬間は
「本当にごめんなさい。だけど落としたらと思うと怖くて…これは包んでもらってもいい?」
つくしの顔は真剣そのもので、ここは俺がひいてあげた。
「笑顔でいて」
耳元で囁く俺に、小さく頷くとまた優しい笑顔を浮かべ支配人から小さな紙袋を受け取った。
怒ってるかなと街を歩きながらチラチラ見てしまう俺についにはクスクスと笑いだし
「怒らないから。美作さんの気持ちとっても嬉しいから」
「やりなおし」
「あきらさんの気持ちとっても嬉しいから」
言いなおした後はその唇にキスを落とす。
「ちょ…外だから」
「え?今文句?苦情?お小言?」
驚いたように俺が言うとゴンッと軽い肘鉄をいただいた。
最高齢のバイオリニストと言われるイブリーギトリスの演奏を聴くのは俺の為。
少々彼女には退屈かと思いきや目を潤ませて
「陽気なおじいちゃんみたいなのに凄い」
「観客を楽しませるために転調したりしてアレンジしていたね。素晴らしいよ」
「そこまではわからなかったけど楽しいと思った」
音楽なんてそれでいい。本当の楽しさは理屈じゃない。
まさにプロだと感じる俺とこういうのだったらまた聴いてもいいなという彼女。
だからこそイブリーギトリスは巨匠と言われるのだろう。
人の波が落ち着いてからホールの出口に向かい
リザーブしていたホテルのレストランへと向かう。
「ねぇ…これってあたしお祝いしてる?」
「あぁ。俺は最高に嬉しいけどね」
「そ…そう」
人目を気にしないように個室での食事。
ワイングラスをそっと合わせて
「あきらさんお誕生日おめでとう」
「ありがとう。つくし」
世界中に二人しか存在しなくても幸福じゃないかと思えるひと時。
だが、少しすると時計を気にして帰宅しようとしているつくしをスイートルームへと誘う。
彼女にとっては今日は何度も言葉を飲み込んだ一日だろう。
それでもちっとも怒ってないくて
部屋に入り
「愛してる」と囁こうとした俺の唇に彼女が指をたてた。
「世界で一番愛してるわ」
そう言って彼女から触れる唇は最高のプレゼントだ。
纏わりつくように身体に腕をまわすと
「去年の事思い出した」
「去年?あぁ付き合ってる頃な」
「うん。あきらさんってどうしても仕事で待ち合わせに遅れるでしょ」
おいおい、嫌な事思い出させるなよ
「でもね、少しでも早く行こうと必死になって仕事を片づけてるだろうなって思えたの。きっと何度も時計をチラチラとみているんだろうなって思えたし言い訳を考えずにごめんと謝る人だから。そして車から降りたら全速力で走ってくるの。少しだけ髪を乱して息をあげて申し訳なさそうな顔で「つくしごめん」そういって小さく頭を下げるから。待ちぼうけしているあたしがいつも幸せだった」
まいったな。
照れくさくて視線を外すと
「あたしもそんな幸せをあげたい」
細く華奢な腕を俺の背中にまわし俺の胸へ頬を寄せる。
「とっくにもらってる。そして今夜また特別な幸せを味わえた」
「ほんとに?」
「あぁ。愛してる」
「あたしも」
もうどちらも唇に指は立てない。
零れだす言葉のひとつひとつが愛を伝える
俺たちの愛は燃え盛るような愛情ではなく
湧き出る泉のように染み渡る愛情だ。
そしていつまでもお互いを潤わせる泉なんだろうな。
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すみません
これでも頑張りました(汗
あきらくんスキなんですけどね。
あきらくんワールドに嵌る時間が少なすぎました。
ちょっと控えめで紳士的なあきらくん。
彼もやっぱり王子様ですね
*ririko*