Mint 54
それから2日ぐらいして久しぶりに道明寺があたしの会社へ来た。
だけど会議室へ直行してしまいお昼に戻ってくると
「俺の弁当ねぇの?」
「だってお弁当出るでしょ」
「牧野様はこちらを」
西田さんがまたも綺麗な折に入ったお弁当をあたしに差し出す。
「いや、これ食べた方が絶対にいいよ?」
「いいんだよ。それよこせよ」
西田さんはあたしに諦めましょうとでもいうような瞳を向けるから
「ほんとにいいのね?」
「いいんだよ」
あたしのお弁当箱を渡すとあまりに嬉しそうな顔に思わず笑いで鼻が鳴った。
3人で会話をするというよりも西田さんの誘導尋問にはまりいろいろな事を言わされているような気もしたが、西田さんと話すことで話術というものを教わっていうような気がする。
決して言葉が荒々しいこともない。
いつも冷静であるのに返事の選択肢が西田さんが与えたものを選ぶ他ないように追い込むというか気づくとそちらに向かわされているようなそんな気がする。
「本社へ異動の決心はつきませんか」
その質問は本当に困る。
自分への説得はだいぶ進んだ。
頑張ってみるかとさえ思えるようになっている。
だがやはり異動する正当な理由が見つからない。
公私混同な気がしてならないから余計に二の足を踏んでいるような気がする。
それは誰かに何かを言われたときに反論できる理由がないということなんだと思う。
行く前から戦場を思うあたしは、どれだけ戦ってきたんだろうか。
正当な理由が見つかればあたしは、何を言われても言い返せるし堂々としていられる。
会社員であれば異動がある事は受け入れられる。
本社へと言われたら当然嫌だろうが何だろうが行くであろう。
自分でほしいと言った時間だが自ら真綿でジリジリと首を絞めているような気さえする。
かといって無理やりだとそりゃ腹がたつ。
だから答えが出ない。
どうしたって正当な理由が欲しいと思う。
あたしという人間はつくづく面倒くさいと思う。
「今に始まったことじゃねぇよ」
「え?」
「お前が面倒くせぇのは昔っからだ」
「言ってた?」
「あぁ」
「どこから言ってた?」
「あたしという人間はって」
なんだ肝心なとこは言ってないのか。
どうせ漏れてしまう言葉なら大事なとこからだろうとわけのわからないツッコみを自分にいれる。
正当じゃない公私混同を理由にあげてくるのだからなおさらそこを考えてもらう為に聞いてほしかったかもしれない。
道明寺とあたしの間にも少しばかり変な空気が漂うのは仕方ない。
お互いイライラというかジレジレというか
そんなものを抱えているのだから。
答えの出ない争いに持ち込む事の方が簡単で答えが出ない争いだからこそ西田さんの手腕によってそれを避けながらも歩みよらされている感じだ。
お弁当が食べ終わりあいつが大きな手でランチバッグの紐を結んでいるのを見て口元が緩む。
不穏な空気が優しいものに変わった気がした。
「美味かった」
「あたしも」
お茶を飲んで息を吐いた時だった。
入口にそこにいるわけがない人の姿が見え湯呑を握りしめたままあたしの動きが止まった。
「どうした」
あたしを見た後で道明寺がその視線を追い
西田さんも振り返った。
「会長」
「ババァ」
この離れ小島の空気が一変した。
社長と部長はぺこぺこしながら道明寺のお母さんにフロア内を説明しご丁寧にも、本当にわざわざあたしたちのいる場所へ案内してきた。
慌てて立ち上がるのはあたしと西田さんで
道明寺はそれこそ何しに来やがったという態度がまるわかりだ。
「あなたがまだここに来なければならないほどの問題事項は何か確認しに来たわ」
「それこそわざわざだな」
「ちょっと道明寺」
あたしが間に入ったところでバチバチと火花は飛び散る。
フロアの中も静まり返り社長も部長も息を潜めた。
「牧野さん」
道明寺のお母さんに呼ばれ
この時本当に数年ぶりにあたしと道明寺のお母さんの目が合った。
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魔女まで会社にやってきたぞ
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