01 アンブレラ
「おい、牧野今どこだよ」
「椿お姉さんと一緒」
「だからどこだよ」
珍しく早く仕事が終わった俺は牧野とのデートの時間にしようと何度も何度も携帯に電話をかけ続ける。だが、呼び出し音が鳴り続けても出ることもなく留守番電話に変る。
「あいつ何やってんだ?」
思い通りにいかないせいか、早く牧野に会いたいからかイライラが募る。
やっと出たと思えば姉ちゃんだ?
しかも場所を聞いてんのに姉ちゃんって何だそりゃ。
「お姉さんこれから用事あるっていうから、あたしも帰る」
「待て、車で迎えに行ってやるからそこで待ってろ」
幸いにも牧野のいる場所は社から近い。
リムジンで向かい通りで降りると牧野の待つカフェへと向かった。
牧野は店内から俺の姿が見えるとすぐに飛び出してきた。
牧野も逢いたかったんだなと俺様の機嫌はめきめきと回復。
だが、牧野の肩にも手にもたくさんのショップバック。
「それ」
俺が指をさすと申し訳なさそうな顔をしながら
「いらないっていうのにプレゼントだからって」
別にそんなもんってぐらいのもんだ。だがまたもイラッとしたのは、俺様からじゃないって事だ。
「お前、俺が買ってやるっていうと怒ってまで拒否るよな」
「お姉さんにも断ったって…だけどあんたと違ってさ…」
まぁ牧野が姉ちゃんに勝てないのは予想が出来る。
天下無敵を絵に描いたような女だしな。
「ほら貸せ」
「いいよ。自分で持つ」
「いいから」
右手には牧野の荷物左手は牧野の手。
荷物を持たせて悪いという気持ちが牧野の中にはある。
恥ずかしがって素直になんか繋がせねぇから半ば強引に繋ぐのがいつもの事だ。
だが、振りほどくこともなく指を絡めても大人しい。
「good job!」
牧野と反対の方を向いて思わず呟いた。
どうせなら、この勢いで俺様からも何か買ってやりてぇな。
「おいあっち行こうぜ」
ブティックの並ぶ方へ歩き始めると
「さっきここら辺みんな見たってば」
「あ?」
「あ…あんたが見たいならいいけど」
すげぇ出鼻くじかれたじゃねぇか
おまけにポツポツと雨まで降ってきやがった。
「道明寺、雨だよ」
「おい牧野、傘だ。傘買ってやる」
よりにもよって傘かと想いながら高級ブランド店に入ると小声で俺に
「コンビニでいいじゃん」
「あ?俺に変な傘をさせって?」
「傘なんてなんだって」
牧野がうだうだ言ってる間に傘の売り場を尋ね俺が歩くと手を繋いだままの牧野もついてくる。
「どれがいい」
「あんたのでしょ」
「いいから。たまには俺にも何かプレゼントさせろ」
この場合、プレゼントってより必要に迫られてって感じだが必要に迫られてっから牧野も渋々頷く。
傘を開くために手を離そうとするので、店員に開かせた。
そんな俺を牧野は睨んだが、傘が広げられると綺麗だとにこやかになる。
現在、ポジション的に俺は傘に負けか?そんでも牧野の笑顔が見れたからよしとするか。
「これに決めた。これでいい?」
「あぁ」
支払いの為に財布を出す時もショップバックはすんなり手離せるが牧野の手は幾分悩む。
そんな俺を可笑しそうに牧野は笑い数度軽く頷くので手を離しカードで支払いを済ませる。
「ねぇあんたの傘は買わないの?」
「もったいねぇだろ」
この俺様がもっとも似合わない『勿体ない』も今日ばかりは便利だ。
店員があからさまにえッという顔をしたが、牧野は納得している。
それでいい。
しかしブティックを出た瞬間
「牧野…」
「な…何よ」
「完璧な俺様なのに、たった今不自由さを感じた」
「え?」
「何で俺には手二本しかねぇんだよ」
「はぁ?」
牧野はゲラゲラと笑い出した。
この荷物と傘と牧野の肩を抱くっつーのは二本しかねぇ腕じゃ無理だ。
「これ捨てるか」
ショップバックを肩から外すと
「バカ。もう…自分で持つよ」
仕方ねぇから手さげは牧野。肩にかけられるのは俺で仲良く半分こ。
「おい濡れるぞ。もっとくっつけ」
「あ…うん。あんたも濡れないようにして」
鬱陶しい雨も悪くねぇな。
さっさとリムジンに戻り荷物だけ入れると俺はまだ牧野を連れて歩く。
不思議そうに俺を見ながらも、黙って牧野はついてくる。
「なぁ。また雨の日に出かけような」
「雨の日?晴の方がいいじゃん」
まったくこいつはわかってねぇ。
だが、それが牧野だ。
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