ラテアート
「上手だね」
美作邸での午後の一時
カプチーノの上のきめ細かい泡の上に
細い串で器用にクマが描かれていく
「毎日描かされてりゃ上手くもなるよ」
双子の妹さんたちにせがまれて無駄にカプチーノを飲んでいると苦笑い。
だけど飲むのがもったいないと思えるほどの
可愛いクマのアートが描かれていく
蝶ネクタイをつけていてすっごく可愛い
「邪道だな」
そんな事を言いながらも西門さんもかなり真剣
「うぉっ繋がっちまった」
「ウフフフフ」
リビングに活けてあるバラをラテに描こうとしているようで
チラチラ動かす視線が子どものようでいつもと違って見える。
「うわっ花沢類もやってたの?」
「はじめて」
下書きもないのにどんどん手を動かし
髪の長い女性をどんどん描いていく。
「それ牧野か?」
美作さんが小さく笑う
「ん」
「類てめぇ牧野とか描いてんじゃねぇぞ」
あたしの隣の座る男はいちいちそういう事に反応する。
「道明寺は何を描いてんの?」
あいつがこういうちまちまとした事をやるっていうだけで
笑いたくて仕方ないのに相当真剣な顔をしているから
見る前から口元が緩む。
「あんたのそれ何」
「牧野」
「は?」
どう見たって小学生でももっと上手いだろうと思える絵
「アハハハあんた絵が下手なんだ」
「こんなとこに描くからだよ」
いや、そういう問題じゃないと思うよ。
それ目と目が離れ過ぎだから
「お前の顔がこうだから仕方ねぇ」
怒る気にすらならないほどの下手過ぎる絵
それじゃお化けだろうって言いたくなるほどだ。
一番気に入ったものをあたしが飲む事になっていて
美作さんのクマが可愛いかなぁ
西門さんのバラも綺麗に仕上がってる
花沢類のあたし?実物と違いすぎるぐらい可愛く描いてくれている。
プッ…
道明寺…かなり真剣な顔でやってるけど
その絵を見たらマイナスイメージにしかならないよ。
もう可笑しくて身体が震えるのを我慢
「早く描かないと泡が消えるから結構難しいね」
出来上がると心なしか嬉しそうな花沢類
「道明寺…あんたにはそんな感想ないでしょ」
みんなで吹き出しちゃうほどの完成度
「さぁ牧野はどれにする?」
4つ並べて眺めていると
「俺のは自分で飲む」
ラテをさっと自分の前へと持っていったのは花沢類
「な…なんでよ」
「お前は俺様の傑作を飲むに決まってんだ」
「いやよ美味しそうじゃないもん」
ゲラゲラ笑いながらあたしの視線は完全に道明寺のラテを除外したけど
やっぱり気になりブサイクなあたしの顔を選んでしまう。
いや、あたしがブサイクなんじゃなくて道明寺の描いたあたしがブサイクなんだ。
「牧野…お前以外誰もその不味そうなラテを飲まねぇよな」
そうなんだよ。
こんな不味そうに見えるラテなんてあたしじゃなきゃ飲まない。
道明寺の描いたラテを選び恐る恐る口をつける。
「味は普通だ」
「当り前だろ」
自分が描いたラテを飲む花沢類が
「牧野とキスしちゃった」
こちらを向いて挑発するように呟いた。
「ちょ…そういう言い方やめて」
「類、てめぇ」
少し怒りを含んだ声色の道明寺だったけれど
「俺はラテを飲んだ本物の唇をいただく」
チュッ
「ちょっ…」
真っ赤になるあたしにクスクス笑う声
道明寺は本当は絵が上手らしい。
驚いた顔をしたあたしがまた可笑しいみたいで
「意外なほど司が一番上手い」
西門さんの言葉に唖然とするのはあたしだけ。
「ちょ…なんであたしの顔があんななのよ」
今はもう消えてしまったブサイクなあたしの顔。
「見たままだからだ」
「殴られたい?」
頬を膨らませ道明寺を睨みつけたけど
「牧野が下手すぎるって選ぶと思ってんだよ」
「絶対誰も飲みたがらないってな」
「司の魂胆まるわかりだったからね」
ちょっと拗ねた顔の花沢類
「だからって牧野にキスすんなよ」
「絵なんだからいいじゃん」
「絵でもダメだ。牧野って名前つけたらもうダメなんだよ」
くだらない言い合いに変わらないなと安心もする。
美作邸からの帰り道
「今度上手な絵を見せてね」
「ヌードになんのか?」
ドコッ
こんなところも変わらない。