Mint 7
各部署のフォルダーにアクセスして必要なデーターを取り出し比較しながら入力を進める。
今まで他の部署の仕事にまで興味を持った事すらなかった。
自分に与えられた仕事をミスなくやる事だけで精一杯。
だけどこうして他の部署の業務内容を覗き見る事は、このイライラのストレスの中で新鮮に感じ興味深かった。
本当はもう少しいろいろなものを眺めたかったがまた遅いだの何だの言われる事はわかっていたから必要と思われるデーターにだけ直接アクセスして作業を進めた。
2つ目が出来上がった時にはお昼になり、プリントアウトしてクリアファイルに入れなおすと道明寺のデスクの上に置いて手を洗いにフロアを出た。
「つくし、扱かれてる?」
ランチに出る前の奈央が声をかけてきた。
「必要な事しか話してない」
心底面白くなさそうに話すあたしを見て小さく笑うと
「ストレス発散は付き合うから」
「有難う」
「あたし達は道明寺さんを眺めさせてもらって癒されてるからそのお礼」
あいつの何を見て癒されるのかあたしにはわからない。
もしあたしが今までの席で仕事をしていたらこの不愉快というか不快感はなかったのかと考えると視界に入るだけできっとイラついたような気がする。
傍にいるとか離れているとかそういう問題じゃなく視界に入る気配を感じるそのすべてがそれを導きだすわけでせめてやっている仕事の文句を言われてさらに不快感を上乗せする生活だけは回避しようと思った。
どうせあいつは西田さんと昼食を食べに外へ出るだろう。
お昼の間にさっき見たほかのファイルを見てみよう。
自分のデスクへ戻ると西田さんから
「牧野様お昼は?」
「西田さん、牧野様はやめてください。そう呼ばれる理由がありません」
きっぱりと言い切ったあたしにまたあいつの方から視線を感じたが
「お弁当を持ってきているのでここでいただきます。先にお伝えしますが専務が召し上がるような高級店は私には縁がないので存じ上げません」
頭を下げバッグの中からお弁当箱を取り出すと結び目をほどき蓋を開けた。
自分で作っているから中身は何だかわかっていても開ける瞬間はやっぱり楽しみに感じる。
二日酔いの頭痛の中で作った自分を誉めたい。
本来であればパスしたいところだが昨日もお弁当を作っていない。
さすがに2日続けて昼食代を使うというのはあたしの中の勿体ない意識が作動した。
生活が苦しいわけでもない。かといって余裕ある豊な暮らしなわけじゃない。
ましてこの突然湧き出した劣悪環境じゃ昨日の激しい言い合いのようにいつ会社を辞める事態になるかわからない。
1食のお昼代がどこまであたしの貯蓄を増やすかというと微妙だけれど塵も積もれば山となる。
あたしは二日酔いの頭痛の中でそう結論付けた。
卵焼きを口へ頬張りながらマウスを操作していると
「行儀も何もあったもんじゃねぇな」
「余計なお世話。今は業務時間ではなく休憩時間ですので」
モニターだけ見つめて冷たく答える。
早くどこかに食べに出かければいいのにお昼に出る様子もない。
あたしにお昼はどうするのか尋ねた西田さんも再びデスクの前に座りキーボードをたたき始めた。
なるほどね。お偉いさんは何も混んでいる時間に出かけなくてもスキな時間に行かれるってわけね。
大葉を巻いた豚肉を口に入れる頃には道明寺の存在さえも忘れて夢中で読みふけっていた。