Mint 51
メープルからリムジンで邸に戻り
エントランスに向かって歩いていくとすぐ後ろからもリムジンが入ってきた。
あいつの顔を見ると
「ババァだ」
その言葉のあとあたしの肩をそっと抱いて引き寄せた。
目の前に止まったリムジンのドアが開くともう二度と逢う事もないと思っていた道明寺のお母さんである道明寺楓が姿を現した。
ビクッと躰が震えるあたしとは反対にまるで気にも止めないという感じであたし達の前を通り過ぎようとした。
「お…おばさま」
声をかけたのは、やっぱり不在中に邸に来ているからで
「予定よりずいぶんと早い帰国のようね」
冷たい視線を道明寺に向けた。
「文句を言われる覚えはねぇぞ」
「報告はうけています。あなたの行動がその娘の人生をも狂わすという事を忘れないことね」
「言われなくたってわかってんだよ」
道明寺のお母さんは一度とすらあたしに視線を合わせることなくそれだけいうと邸の奥へと歩いて行った。
「あんた仕事を放りだしてきたわけじゃないんだ」
「は?」
「あたしはてっきり」
あたしの安堵の溜息に本気で腹をたてているみたいで
「ここの出来が違うんだよ」
得意気な顔で自分の頭をコンコンと指さしているから
「中身までクルクルじゃなくて安心したよ」
「おいてめぇ」
道明寺から走って逃げながらも
「あたし追い返されなかった」
「目なんか合わなかったけど追い返されなかったよ」
それが嬉しくて道明寺があたしの腕を掴んだ時にはあたしから抱き付いた。
「よかった」
道明寺は呟くあたしを腕の中へ閉じ込めるように抱きしめた。
「ほらほら、何をそんなとこでイチャついてんだよ」
突然のタマさんの声に慌てて離れようとしたけれど道明寺の腕が力強くて抜け出せない。
必死にもがくあたしに笑いながら
「坊ちゃん女は優しく扱わないといけませんよ。思いのままにぶつけたら鶏ガラみたいなつくしはすぐに壊れちまいますからね」
「お…おぅ」
「な…なんの会話よ」
赤い顔のあたしにタマさんが笑い、そして道明寺の顔を見て
「親子揃って予定より早い帰国なんて使用人にとっちゃ迷惑な話だよ」
「プッ」
「ご自分の目で確認されたかったんですよ。本当につくしを連れ戻せたのかどうか」
二人の顔を交互に見ているだけのあたしの前で道明寺とタマさんは二人で笑い続けていた。
「さぁさぁイチャイチャするならさっさと部屋へお入り」
またその話かいと思いながらも
「おやすみなさい」
タマさんに挨拶をして東の角部屋のあいつの部屋へと向かった。
ドアを開けたとたん
「タマの期待にこたえなきゃな」
「は?」
「期待されてっからよ」
「ちょっ」
乱暴な言葉とは逆に抱きしめる腕は優しく触れる唇はどこまでも甘い。
あたしを蕩けさせるのなんて簡単だといわんばかりに
「欲しくなっただろ?」
耳元で囁かれアルコールなんてとっくにぬけているのに酔っているかのように顔が赤くなり躰が火照る。
そんな姿を見下ろしては小さく笑いあたしを抱き上げてベッドへと連れていく。
静かにベッドの上に降ろされ降り注ぐキスに小さく笑いがこみ上げると
「もう、いい加減こっちにこいよ」
道明寺が囁いた。
それはあたしも考えている。
ほんとに考えているんだ。
「反対してるやつはいねぇ。仕事してぇなら俺のとこで働けばいいだろ」
「いやそういう問題じゃなくてね」
「何なんだよ」
さっきまでの幸せいっぱいの甘い雰囲気は一変した。
あたしも慌てて飛び起き
「あたしも考えてんのよ」
「お前の考えが決まるの待ってたら何年先になるかわかりゃしねぇ」
「正当な理由がほしいの」
「俺の女って正当な理由があんだろ」
「それ正当じゃないから」
「じゃあ婚約しちまおうぜ」
「そういう問題じゃなくてさ」
「いったい何なんだよ」
「何って公私混同でしょ」
「お前の気持ちがさっぱりわかんねぇよ。そんなにうちに来んのが嫌なのかよ」
道明寺はそう言ったきり黙ってしまった。
久しぶりのバトルだった。
お互いフンッとそっぽを向くけど別に嫌いになったわけじゃない。
顔を見合わせるとまたもっと余計な事を言ってしまいそうになるから回避をしていると言った方が正しいかもしれない。
せっかく久しぶりにあったのに背中を向けたままあたしたちは眠った。
それはどちらかがそうしようと言ったわけじゃなく
お互いが頭を冷やすのに大事だと思ったからだった。
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つくしちゃん考え過ぎずに
とりあえず行ってみたら
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