Mint 53
翌日出勤すると当然ながら1人離れ小島で黙々と仕事をこなした。
時々タイピングの手が止まるのはやはり考えてしまうからだ。
ハーッと大きなため息が零れるのは何度目だろう。
「つくし、今日時間ある?」
奈央が声をかけてきた。
「あ…うん」
「久しぶりに二人でご飯食べようよ」
「うん」
奈央とは道明寺が来る前から時々一緒に夕食を食べていた。
道明寺にメッセージを送信しそれからはもう定時が待ち遠しかった。
終業時間になりスマホを見ると
遅くなる前にタクシーで帰れよ
わかった。
あたしも返事を返した。
黙って行かずにちゃんと断るあたしも変だが、ダメと言わないあいつにもまた驚いた。
でもそれは、離れていた5年間のあたしの生活をいうものを感じてくれている事がわかる。
パソコンの電源を落とすと奈央と二人で出来たばかりのイタリアンへ行った。
注文をするとすぐに
「つくし?あたしじゃ相談相手にならない?」
「え?」
「なんかつくし悩んでるみたいだからさ」
道明寺やF3と離れている間、あたしの話を誰よりも聞いてくれていたのが奈央だ。
一緒に過ごす時間が多かったのも奈央だ。
「専務のこと?」
伺うように奈央が聞いてきた。
あたしは静かに頷いた。
もう奈央には、話してしまおうと思った。
隠している事がひどく冷たいようにも思えたからだ。
そしてそれは奈央を信用していないと言っているようで傷つけているように思えた。
最初に
「ごめん」と謝ってから道明寺とあたしの今までを奈央に話した。
驚くかと思ったけどそんな事はわかってたという感じで
「何年一緒にいたと思ってるの」
奈央は笑った。
そして話してくれて嬉しいとあたしの手を握った。
「最初はね、恋人だとは思わなかったのよ。だけど見てたらわかるよ。おそらくフロアの人はみんなわかってると思うよ?だって専務はつくしを本当に大事にしてる」
「うん。喧嘩ばっかりだけどね」
「つくしはまだ反対されてるの?」
心配そうな奈央にううんと首を振った。
「あたしもいろんな恋愛してるのよ」
奈央が小さく笑いながら語ってくれた。
今思うとあたし自身がその話題を避けていたのかこうやって恋愛話をまともに二人でしたことは初めてだったかもしれない。
「愛することは出来ても愛してもらうのって簡単な事じゃないのよ」
奥さんのいる人を好きになった事があると肩を竦めて話す奈央にちょっと驚きながら聞き入った。
「結婚してるって知らなかったんだもの。でも知った時にはもうスキになってた」
それはそれは辛い恋よってもう思い出話として語る奈央。
流した涙も多かったんだろうと思う。
「道明寺さんはつくしを守ろうと必死なんだろうね。まぁうちの会社では男性社員からだろうけど」
「ないない」
あたしの言葉に奈央は笑い
「道明寺さんだけに戦わせるの?」
奈央の言葉にハッとした。
「つくしが上流階級へ足を踏み入れるのは怖いのはわかる。何も知らないあたしたちと違って嫌な思いも辛い思いもたくさんしてきてるわけだしね。でもさ、道明寺さんだってあたしたちのいるところへ降りてくるのってやっぱり同じように苦労があると思うよ?」
「苦労か…」
あたしが感じる戸惑いのように道明寺も戸惑いがあり妬みすらむけられる事があるだろう。
そうだ…それをあたしは忘れていた。
奈央に言われるまでまったく気づかなかった。
「お互いが歩み寄るんだよつくし」
小さく頷くと全部を自分でしようと思わない事と
人差し指を立てまるでお姉さんのような口ぶりで
「自分でどうにかしたいのか助けてほしいのか道明寺さんはつくしの考えを尊重してくれるはず」
その言葉は微妙にも思えたけれど
「一緒に立ち向かおうと思っている相手に助けられるのって嫌?」
それには横に首を振った。
「助けてって言われるのは?」
それにも横に首を振った。
「そういう時に助けてって言うのって甘えじゃなくて信頼だと思わない?信頼してるから言えるんだとあたしは思うよ。だから言われたら嬉しいもの」
「そうだね」
奈央の言葉はあたしの背中を押してくれたような気がした。
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