Mint 55
もう一難去ってまた一難。
なんでこうも戦が続くのだろうか。
しかもこの人の前では、過去の記憶の方が鮮明で
腹だたしさの前に恐怖感が湧き上がり
まるで落ち武者になったような気にさえなる。
例え将軍と落ち武者であってもこれを対峙というのだろうか。
あたしの名前を呼んだまま道明寺のお母さんも何も言わない。
ただじっとあたしの目を見つめ心の中を探られているような気がした。
先にそれを破ったのは会長であるお母さんで
「あなたはいつまでここにいるつもり」
一瞬あたしの事ではなく道明寺の事だと思った。
一度大きく目を見開いてしまったのはその為だ。
「あ…あたしですか」
「そうです。あなたです」
眼鏡の奥の冷やかな視線に背中に汗が流れる。
「牧野答えなくていいぞ」
「あなたは黙っていなさい」
「大丈夫だから」
庇うようにあたしを後ろへと隠そうとした道明寺をあたしも止めた。
「はっきり言ってあなたは道明寺ホールディングスにも道明寺財閥にとっても何ら必要もなく寧ろその逆」
「わかってます」
「あなたより優れた人の方が遥かに多い」
「はい」
「わが社にとって何ら利益を生まず不要であっても後継者である息子が不出来であればあなたぐらいがちょうどいい」
「あ?「は?」」
「道明寺の後継者とは思えないほどの愚息」
いやいくら何でも言い過ぎだろうと思うが何の迷いもないみたいで次々に道明寺を貶しはじめる。
そして
「だからあなたぐらいがちょうどいいんです」
これはちっとも喜べる認められ方じゃない。
「あなたのその頭で考える事などたかがしれています。無駄な事はおやめなさい」
道明寺の次はあたしかい。
同僚の前でそこまであたしのダメさを並べたてなくてもいいんじゃないかと思うがそれはこれだけ調べあげているという事なんだろう。
「あの生意気でどこまでも強気な小娘の姿はどこに影を潜めたのかしら」
「え?」
「戦わずして逃げる女ならさらにがっかりだこと。まぁこれ以上がっかりする事もないぐらい底辺にいらっしゃるのでしたわね」
愚息愚息の連発の後はあたしへの貶しとも思える発言で道明寺の機嫌もすこぶる悪いのはひしひしと伝わる。
いったい何が言いたいのかあたしには理解が出来ない。
西田さんの方を見ると
「司様の為に牧野様が本社で戦えという事です。牧野様がいらっしゃる事で何倍も何十倍も司様は力を発揮なさるからでございましょう」
「あぁ…そういうこと?」
本当にそうか?
半信半疑で道明寺のお母さんの顔を見るとやっと理解したのかとでも言いたそうに小さくため息を零し
「私に歯向かった小娘が何を恐れているのか理解できない。牧野さん、あなたに道明寺ホールディングスへの異動を命じます。その辞令をうけなさい」
そしてあたしがもっとも気にしていた正当な理由をそんなことは読んでいたとでもいうかのように
「これは辞令です。そして道明寺ホールディングスが何をしているかを知る為に働きなさい。愚息を助ける為だと一心に働きなさい」
道明寺のお母さんの真剣な顔つきに思わず
「はい」と返事をしていた。
そして
「私を倒したいでしょ?」
そう言ってあたしに右手を差し出した。
厳しい瞳にきつい口調それでも僅かに口元が緩んでいて
「倒したいです」
同じように口元を緩めながら会長であるおばさまの手を握った。
呆気にとられていた道明寺は慌てたように
「おい待てよ。勝手に連れていくな」
「あなたの交渉術は牧野さん相手では何の役にも立たない。商談であれば大損害を招く結果ということです。牧野さんを引っ張ったのは司、あなたではなく私です」
「あ?」
「牧野さんをこのまま連れていって構いませんね?」
会長が聞いたのは道明寺ではなく、あたしの会社の社長と部長だ。
「はいもちろんでございます」
えっ
「急ぎなさい」
颯爽と出口に向かって歩き出す会長の後をあたしはバッグを持つと小走りで追いかけた。
エレベーターを待っていると道明寺が来て
「どこ連れていくんだよ」
あたしの腕を掴んで自分の方へ引き戻した。
「いう必要もありません」
「ざけんなよ」
「今さら引き裂くなんて無駄な事はしません」
「じゃあどうしようってんだよ」
「あなたは関係ありません」
来たエレベーターに秘書の方と乗り込むとあたしの腕を引き
唖然とする道明寺の顔を見つめている間にドアは閉じた。
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なんと楓さんがつくしちゃんをゲット
さすがラスボス
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