Mint 58
翌朝、道明寺と揉めている横で
おば様からSPを連れて歩く方がいいのですかと言われ
あたしから出る答えは望まれている
「車で行きます」だった。
この誘導されるように答えてしまうのは何なんだろう。
リムジンの中で嬉しそうに纏わりつく道明寺の横であたしは考え続けた。
「勝てる日が来るとは思えない」
自分で言って1人大笑いするあたしと
そんな事は気にもせずべたべたとくっつく男を見るとやっぱり会長室で良かったと思った。
リムジンを降りエントランスを歩くとすぐに男性が歩いてきて
道明寺とあたしに頭を下げると
「河野と申します。牧野様はこちらを」
会長の秘書の河野さんからあたしに手渡されたのは、ゴールドのケースに入れられていた道明寺ホールディングスの社員証。
「すごっ煌びやか」
手にした瞬間に思わず吹き出した。
それを見て不満顔なのは道明寺で、
「やっぱりお前がゴールドなのは気に食わねぇ」
「え?」
西田さんがポケットから取り出して見せてくれたのは、きっちりとした七三の写真の社員証…
いやそこじゃなくてケースの縁取りはシルバーだった。
「私どもは首から提げることはありませんがいつも携帯はしています」
「はい」
「牧野様は必ず首から提げてください」
「あっはい」
今までの会社も社員証で出勤管理をしていたのでそれに異論はなかった。
「それは大いなる力を発揮する事になるでしょう」
西田さんの言葉であたしはゴールドの縁取りの社員証を再び眺めた。
「会長付きの人間である印です」
会長の秘書の河野さんが説明をしてくれた。
会長付の人間、それは会長自らが選びその眼鏡に適ったものだけがその部署に配置され
そこに配置されるものへの誹謗中傷はすなわち道明寺楓会長への誹謗中傷ということであった。
「俺だってこいつを守ってやれんのに」
面白くなさそうにつぶやく道明寺。
それを宥めるように西田さんが
「確かにそうです。ですが司様付になると言う事は女性社員誰もが憧れる場所になります。また同じ司様付の中でもそれは激しい戦火の炎が燃えております」
「絶対に嫌だ」
あたしが笑うと河野さんも笑い
「ですから会長は牧野様を会長付にされたのだと思います。この社員証を付け余計な雑音に惑わされず仕事に専念してほしいというお気持ちと察しております」
「はい」
「西田室長から特別指導をお受けになられていたと伺っております」
「は?」
あたしはその言葉に慌てた。
「いや、何も…」
「牧野様、この数か月私の指示通りに業務をこなしていらっしゃったではありませんか」
「え?」
「会長もそれをご覧になっていらっしゃいます。自分の仕事に支障が出ると思うようであれば、牧野様であっても会長付にはされません」
役員専用エレベーターに向かって歩きながら
「でも道明寺ホールディングスには、いらないと言われましたよ」
肩を竦めて笑うと
「会長らしい」
河野さんは吹き出し
西田さんも小さく笑いながら
「目一杯の褒め言葉だと私は思っておりました」
「いやいや」
あたあたとするあたしにさらに二人は笑っていたけれど
終いには道明寺も笑いだし
「俺の事は愚息だってずいぶんと貶してたけど愚息には必要だから来いって言ってたな」
「さようでございますよ。猛烈なラブコールでございました」
4人しか乗っていないエレベーターの中で我慢できずに4人でゲラゲラと大笑いをした。
道明寺と西田さんがエレベーターを降り河野さんとあたしはさらに上へ向かう。
「あとでな」
「うん」
「あまり頻繁にお越しになりませんように」
ドアが閉まる瞬間の河野さんの言葉にあたしはまた吹き出してしまった。
西田さんよりもっとずっとソフトな人だ。
だが人当りの良さだけではなく抜群に仕事が出来る人だという事は言葉や立ち振る舞いを見ているだけでもわかる。
河野さんの後に続いて廊下を歩き重厚なドアをノックした。
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まるで水戸黄門の印籠なみの社員証をゲット
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