信義 『俺の傍ではダメなのか』花男Ver
本当に、本当にお久しぶりです。
お休み中にたくさんの応援やお見舞いを有難うございました。
相当な不定期更新になるかと思いますが、
皆さまに今年度のお礼をこめまして久しぶりの短編になります。
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俺が誘拐みてぇにして攫ってきた牧野。
最初こそ怯えていたけどすぐに好奇心旺盛のお前は
ちっとも俺の言う事も聞かねぇで
1人で城外へと抜けだしたり
迂達赤隊(うだるち)のやつらと仲良く遊びだし
男ばっかの中で何の警戒心も持たないコイツはいったい何なのかと思った。
何で、コイツなんだと苛立ちにも近い思いを味わった数は右手じゃ足りねぇ。
「約束は守る。高麗の武士の名にかけて誓う」
牧野と最初に誓った約束だった。
だが、残酷にも王命によりその約束を守ってやる事が出来ず
「道明寺の嘘つき」
涙いっぱいためた瞳で睨みつけたよな。
誰の力も借りない。自力で帰ると決してあきらめないお前を見るたびに
近衛隊である自分の身が心底恨めしい。
身体の中に埋め込まれたような忠誠心さえ邪魔くせぇと思う。
牧野…俺だってお前を帰さなきゃならねぇ、そう思ってんだよ。
武士の約束って簡単に反故出来るもんじゃねぇんだよ。
「必ず、お帰しする。いつまたあの門が開くかわからないが、必ず、必ず約束は守る」
その言葉で俺の目を見つめ、静かに頷いてくれたよな。
もう一度、俺を信じてくれたって事なんだよな。
近くにいないと守れねぇって言ってんのに、フラフラと動きまわり、
副隊長の総二郎に揶揄われては顔を赤くして怒る牧野。
「いい加減にしてよッ」
か細い腕を振り上げて追いかけまわし、
追いつけないのが地団駄を踏むほどそんなに悔しいのか。
迂達赤隊…近衛隊だぞ?
木刀を持ち出して振り回すけれど、どう見たって振り回されてんじゃねぇか。
「牧野、俺はココだよ。ほらちゃんと狙ってごらんよ」
「見てなさいよ」
段差に座ってその様子を見ていた俺は、牧野の助太刀をしてやるように、足元の小石を拾い総二郎の顔に投げつけた。
ピシッ
「痛ッ」
ボコッ
見事に牧野の振り上げた木刀は、総二郎の右肩に入った。
「キャッやだ。ちょっと…ちゃんと避けなさいって」
大丈夫かと聞きながら心配そうに狼狽える牧野に
「牧野、隙あり」
しっかりと自分の腕の中へと抱きしめた総二郎。
その姿を見ると今度は、もっと大きい石を手にした。
俺の動きを察知したかのように総二郎がにやつきながら俺を見つめ
「司、投げたら牧野に当たるかもしんねぇだろ」
「てめぇが当たった後で石を掴めよ」
「当たった後かよ」
笑いながら、牧野を離すと
「司のとこへ行け」
牧野の身体をクルリッと俺の方へ向け背中をトンッと押した。
「え?い…嫌だよ」
顔を赤くしたまま踵を返すと迂達赤の庭を抜け典儀寺の方へ歩いて行った。
典儀寺へ行ったかと思えば類にも揶揄われ
「まったくあんた達は揃いもそろってッ」
目の前にある青磁の壺を振り上げたが
高そう…頭の中を過ったんだろう。
すぐにその場に戻し、
「こ…この壺のお蔭で命拾いしたわね」
「ん…牧野にだったら俺の命ぐらいいつでも差し出すよ」
「医者のくせに命を粗末にするんじゃないの」
類に見つめられて顔を赤くするあいつにも大きなため息と苛立つ事も数えきれねぇ。
「牧野、あそこで司が怖い顔して見てるよ」
そんな類の言葉に
「何かしでかさねぇか見張ってるだけだ」
「何もしないわよ」
頬を膨らませ見上げるように俺を睨みつけるが、どこか口元が笑っていて
つられたように俺の口角が上がる。
「道明寺のこの笑い方いいよね。そう思わない?」
綺麗な白い指が俺の左の口角を撫でる。
「ば…ばかッお前は何やってんだ」
慌てる俺にクスクスと類1人が楽しそうに笑っていやがる。
そういや、王付きの内官のあきらがどうにかしろって俺に助けを求めてきたぞ。
お前、王に向かって
「は?」「なんで?」「嫌だ」
平気で口にしてるだと?
『忠誠心?そんなものクソくらえよ。命はね、あんたの為じゃなく自分のものなのよ』
確かに牧野、お前はこの時代の人間じゃねぇよな。
普通なら恐ろしくてそんな言葉を口にも出来ねぇ。
いや、考えもつかねぇ。
お前との約束を反故した事に王自身も後ろめたさがあるから、
いや、あの王だからこそお前のそんな発言を咎める事もなく驚いたあと
笑って済ませてくれんだよ。
普通なら極刑だぞ。
王妃もまたお前と同じように違う国、違う世界へと来たばかりだ。
自分のせいで、お前がこの世界へ足を踏み入れ帰る事も叶わなかった事実を知り、
庶民でしかねぇお前の事で尊い王妃が胸を痛めてんだよ。
だから、牧野に心を砕き、傍に置き誰よりも会話を交わす。
王様もそれがわかってんだよ。
最初こそ、出される食べ物に戸惑いはしていたが、あっという間にそれに馴染み
満腹になれば、木陰に寝そべりスヤスヤと昼寝を始める。
「ここだったか」
牧野の姿が見えず、何度も危険な目にあっているからこそ緊張が走った。
だが、その姿を視界に捉えた途端、焦りの代わりに何とも言えねぇ穏やかな気持ちに変わっていく。
「少しは警戒しろよ」
小さな寝息をたてる牧野の横へと腰をおろし
その寝顔を見つめた。
「待ってる人がいるんだよな」
艶のある髪を指を通しそっと梳いた。
楽しそうに笑い声を響かせているが、夜中に何度も魘されている事もわかってんだ。
「ん…」
目覚めてしまうかと慌ててその手を離したが、満腹だとちょっとやそっとじゃ起きねぇんだったな。
プッ
小さな笑いとともに額にかかった髪をどけてやる。
「武士の約束…人生の中で一度だけ、たった一度だけ破ってもいいか?」
何かを食べる夢でも見ているのか、小さく動かす牧野の唇をそっと人差し指でなぞり
『俺のそばでは、ダメなのか』
溢れだした思いがついに口から零れた。
「ん…いい…よ…」
そよ風が葉を揺らす音しか聞こえない中に
瞼を閉じたままの牧野のから聞こえてきた声。
それは、夢の続きなのか
俺の願いを聞き入れたのか
身体を屈め、牧野の唇にそっと重ねると
ピクッと僅かに身体が震えた。
答えはもういらねぇ、俺自身が決めた。
「泣いても叫んでも、離さねぇよ」
信義 『俺のそばではダメなのか』

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実はですね・・・信義にずっぽりと嵌りまして
20回は軽く見てますね・・・
ブランシュ様に勧めまくり、自分じゃ書けないから書いて書いてとせがみ(笑)
読ませていただいては、うっとりと浸っておりました。
信義の二次小説を書こうと本気で思うぐらい嵌ってました

きちんとした小説は、ブラ様ので読んでいただいて、
私のは、暇つぶしって感じでお願いします。
久しぶりにお邪魔したら、信義でしたね^^
比べちゃ嫌よ~んッ
そして、まま様からのステキなイラスト
年内にはこのイラストを皆様にお見せしたいと思っておりました。
実は、もう一枚ありましてね・・・

そちらもそりゃもうステキなんでございますのよ

皆さまにご覧いただく為にも、どうにか復活せねばと思っております。
ご心配おかけしてしまった体調ですが、もう復活しております。
ちょっと2度ほど入院するはめになり

何かと大変でしたが、今はすっかり元気です

次の更新がいつかは、お約束出来ずに申し訳ありませんが、時々覗いて見て下さい。
ひょっこり更新している事があるかもしれません

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