イチブラ 18
「まぁつくしちゃんがまた惚れるかどうかは置いといて…あたしからお願いがある」
なぜか美和子さんが両手を合わせてきた。
「ものすごく個人的な事で場違いだっていうのはわかるんだけど…」
申し訳なさそうな美和子さんをあたしと道明寺は見つめた。
「お願いだから絶対にバレないようにして。こんなスクープを黙ってたなんて知られたらクビか左遷になる」
川本さんは思い切り吹き出した。
「美和子の出版社だって特ダネ探しに必死だよな。彼は道明寺財閥の御曹司、あの道明寺HDの後継者が、うちのパティシエとの10年の時を越えた恋愛なんて大スクープだ」
「いやいや恋愛してないから」
「否定しても結果は同じだ。お前は俺に惚れる」
「ちょっと待ってって。あんた今のあたしを知らないでしょうが」
「俺はどんなお前でもスキに決まってんだろ」
羞恥心の欠片すら見当たらないこの男の言葉であたしが真っ赤になった事は言うまでもない。
恥ずかしさのあまり頬が膨らんでそっぽを向いてしまうのは仕方ないだろう。だけどそんなあたしの様子さえも気にも留めない感じで
「俺がなんですぐに牧野に逢いに来なかったかわかるか?」
とんでもなく優しい声で話しかけてくるから無視できない。
「時間が経ちすぎたからでしょ」
「アホか。時間は関係ねぇってさっきから言ってんだろうが」
打って変わってまったく何もわかってねぇなこのアホというような目であたしを見た。
でも再び口を開いた時にはすごく真面目な顔をして
「俺たちにとってあの頃一番の大問題があったよな」
「いやもう何もかもが問題過ぎて思い出すのすら憂鬱よ」
誤魔化すように言ったけれどあたしにだってわかる。そしてその問題の大きさも。
「お前を傷つけず逃さないためには、厄介な問題を先に片づける必要があんだよ」
「あたしに恋人がいるとか思わなかったわけ?」
「平気よ。つくしちゃん彼氏いないから」
「あ?お前いるって言ってたのはウソか。まぁ一応は考えたけどな。そんでもお前が他の誰かに恋してても俺はお前に逢いたくて仕方ねぇ。思い出になんか出来るわけねぇだろ。取り返しゃいい話だ」
「いないよな。この間もいませんってつくしちゃん言ってたじゃないか」
何でだか道明寺の方を応援されているような気がしてならない。縋るような目を川本さんに向けたけれどいつも店で見せるような微笑みだけであとは自分で頑張れよというのがまるわかりだ。
「ほら、俺は売上げに貢献してくれた道明寺くんに感謝してるから」
そういってこの場を和ませた。
「それに文句なしにイイ男じゃない。まぁF4だっけ?その中の美作さんって人の顔が一番タイプだけど生の道明寺くんカッコよすぎて文句の付けどころがないよ」
「当り前ぇだ」
あたしは心の中でさすがマダムキラーと思ったり、美和子さんのパワフルさに改めて驚いて傍観者のようにただ見つめていた。
「美作くんたちも店に来てくれるよな」
川本さんの言葉に道明寺があたしを睨んだのがわかったけれど
「ずっと友だちだったから」
その一言に舌うちをしながらも文句の言葉は続かなかった。
そして美和子さんと道明寺が何やら相談をはじめると川本さんがあたしに、恋愛しようと気構えないでどのぐらい成長して戻って来たかそれを確かめるぐらいの気楽さでいいと言った。スキにならなければ今度こそ綺麗に終わりが迎えられる。あたしも道明寺も二人同時にピリオドが打てると教えてくれた。それが友だちとしての始まりになるかもしれないという希望すら一緒に与えてくれて無理に遠ざけることも見ないふりもそして考えないようにする事もないと諭してくれた。
************
つくしちゃん背中押されたみたいですね
やっとリスタート
頑張れエネルギー押してねッ♪