イチブラ 21
あたしと道明寺のメールはすぐに終わった。
打つのが面倒なあいつとあたしが途中で寝たからだ。
翌朝、目が覚めた時は変な夢を見たのかもしれないと携帯を確認。
メールを見るまでもなく着信履歴が残っていて現実であった事をわからせた。
安定しない歪な形のあたしは、グラグラとしながら想い悩むのかもしれない。
それでも、普通に生活をする事には変わりようがない。
あれほど苦労した道明寺という存在を消し去る習慣は一瞬にして消えた。
どれだけ長い年月をかけたと思っているのよと抗議する相手が道明寺のようであって道明寺じゃない。
「それの何が問題なんだよ」
この一言で片づけられるのがわかりすぎていていうだけ無駄だと思うから。
店へ行くと川本さんは何だか上機嫌でケーキのデコレーションをしながらも窺うようにその顔を見た。
「すごいよな。10年だよつくしちゃん」
「そーですね」
「それなのにあの自信。感動したよ」
「唖然とするのが普通だと思いますが」
「口とは裏腹に楽しそうな表情だよ」
「気のせいだと思います」
本当に驚くほど饒舌な川本さんにもあたしはどう反応していいのか困る。
出来たケーキをショーケースに並べていき開店の準備を整える。
「バースデーケーキの予約入ってたよね?」
「はい」
「プレートの名前とロウソクの数を確認して準備して」
「はい」
ケーキの種類はたくさんあるけれどやっぱりバースデーケーキといえば真っ白い生クリームの上にイチゴの乗ったデコレーション。
急いで予約ノートを見て思わず一言。
「知ってていいました?」
「まさか」
笑っているから知っていたんだろう。
チョコペンを取り出しプレートに つかさくんおたんじょうびおめでとう
文字を書いてローソクの数は5本
「つくしちゃん、去年まではすぐにその名前を書けなかったんだよね」
「そうでした?」
「そうだよ。彼を知らなかったけど、まぁ別れた男の名前なのかなって思ってた」
川本さんの言葉に思わずゲラゲラと笑ってしまう。
「何も今日じゃなくたっていいですよね?」
「神様もつくしちゃんを試したのかもね」
川本さんは可愛らしくウィンクするとトレイの上に並べられたケーキをショーケースの中へと運んで行った。
何も言わないし気にしないようで、結構見てるもんなんだ。
中腰になって覗き込んでいる後ろ姿を見て思わず呟いた。
OPENすると、本当に普通にあたしの日常が始まった。何を気負う必要もなくお店に来るお客様にケーキの味を説明したり、一緒になって選んだり。つかさくんのバースデーケーキもお母さんが取りにいらしてお祝いの言葉を一緒に添えた。
閉店間際になると「全部下さい」というお客様が今日も見えた。
言い忘れたのかと考えたが確かにメールで伝えた。
無視か?無視なのか?と思いはするけれど、川本さんは喜んでいるし不審な出来事ではなくなった。
「これ、いつまで続くんですかね」
「あぁ…いつだろうね。犯人の顔すらわかったからもういつでもいいかな」
道明寺はついに犯人と呼ばれるようになった。
「止めてもらってもいいですか?」
「いいよ。まったく問題ない」
何となく今日のメールの用事が出来て良かったと思った。
あいつからの最後のメールに 明日もメールしろって書いてあったから。
正当な理由が見つかった事に安心して心が弾んだ。
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