イチブラ 22
バイトのみんなが先に帰り、あたしと川本さんはカフェの方で新作の相談をした。
イメージしたものが思ったような味や形にならない事もある。
予想外のものが美味しかったりもして、あれこれ相談をする時間があたしはスキだ。
「ここゼリーってあたしはあまり好きじゃないんですよね」
「綺麗だけどな。ジャムだと普通過ぎるしな」
「これ、単価そうとう高くなりますよね」
「限定品としてあえて少なく作れば可能だよ」
材料とどちらもあまり上手とはいえない絵を見ながら出来上がりのイメージは頭の中
ぐーっとあたしのお腹がなって話合いは終了。
「ケーキが何ひとつ残ってないからな」
「そうなんですよ。ほんと迷惑」
言いながらも、口元が緩むぐらいには許せていてそんなあたしをみた川本さんが辛くてもいい恋だったんだよと呟いた。
同じ男として、忘れた事は本人にとっても悔し過ぎる事だろうしそこからまた動き出そうとする勇気もあれだけ自信たっぷりに言うに至るまでの感情もしっかりと見て感じてやってほしい。
18の道明寺は、こうなることを予感していたわけでは決してないけれどあの頃すでに、何があっても引き戻す決意は持っていた。あたしよりもっともっと先を見ていたんだろうと川本さんは言った。
それに対してもあたしはいい言葉を返す事が出来なかった。
道明寺が後継者という問題は大きすぎる問題で何度もあたしたちの間を阻んだ。だけどその理由も今より理解が出来ていなかったように思う。まさに無鉄砲であってだからこそ阻まれたという事が今のあたし達にはわかる。
今でも、道明寺が後継者という事に何ら変わりはないけれど
「信じろっていうんだよね」
「あぁ」
「あの頃って疑う事もなくっていうか純粋に信じて」
「うん」
「今は、疑ってるの。ほんとに大丈夫なの?って。それでも信じる方をとるって不思議だなって」
独り言のように呟くあたしに、18の道明寺がそれだけの事を残したんだと微笑んだ。
どんな事があっても、この人は信じて平気だという強い気持ちをあたしはちゃんと知ってだから10年の年月を心の奥底では人知れず静かに待っていたんだと半分揶揄うような顔で言う。
「待ってないですよ」
「待ってたさ」
「もうね…さすがに諦めてたっていうか」
「諦めだろ?」
「諦めはやめるですから」
あのままスキでいる理由がなかった。
これが正しいのかもしれない。あたしは想われていたという驕りがあったのかも。
愛情を愛情で返して欲しいという見返りを求めていたのかもしれない。
「頭で考えられないのが恋愛、どうしようもないのが恋愛なんだよ。まさに彼がそうだろ?彼ほどの地位にある人間がまるで本能に従うのが当然のように行動に出るじゃないか。それが恋だよ眩しいよとてもね」
川本さんの言葉はあたしの涙腺を緩めそうだった。
店の電気を消しシャッターを降ろすと家へと向かう。
携帯が振動し見ると道明寺からのメールでまだ帰ってないのかと書いてあった。
新作の相談してた。今、店を出たとこ
送るとすぐに来る返信
それは、駆け足で10年分を話すような勢いなんだけれど途中で打つのが面倒になる道明寺と電話が鳴ると慌てて切っちゃうあたしとで2人の間の進み方は極端なほどスローペースだった。
店に来るのにどれほど無茶をしていたんだろうって思うほどあいつも忙しくしていて文字でのやりとりが続いていくのが逆に少しずつあたしの心を道明寺に向けて急がせたようにも思う。
明日、店終わるころに迎えに行く
そろそろ飯ぐらい食おうぜ
だいぶたったころに受け取ったメールには素直にOK出来るようになっていた。
どちらも仕事が終わるのが遅いからちょうどよかっただけよ。
そんな会う理由だけは未だに考えてしまった。
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デートのお誘い
はい。みんなその瞬間を待ってました
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