03 四龍恋鎖
「若、お車へ」
黒塗りの車のドアが開けられ当然のようにその車へと乗りこもうとしている男は、いかつい顔をした男たちの中で神に選ばれた男と思われるほどの美しさを放っていた。185cmはあろう長身と鍛えられ引き締まった肉体。鋭い目つきでありながらそれに囚われたいと心酔させる強い瞳。
この男こそ『美しき獣』と呼ばれる道明寺組若頭 道明寺 司だ。
極道社会とて頭のキレる男が上に立つ。
だがこの道明寺司はそれだけの男ではなく類をみないほど腕もたつ。
極道には不要とばかりに愛想のひとつもなくたえず不満を抱えているようなその表情に手下の男たちは緊張感が続く。
大きな屋敷の前で車は止まり再び開けられたドアから静かに足を降ろすと迎えるように並んでいる男たちを睨みつけた。睨まれた方はたまったものではない。いったい我が身に何が降りかかってくるのかと心臓が緊張の音を響かせる。
極道たるもの命が惜しいわけではない。だが意味のない死など誰が選ぶであろうか。
とはいえ黒の縦社会では理不尽と思われることも最早や当り前の行為でしかない。
何が正義で何が悪か。白とは異なった正義がまかり通るのが黒の世界。
しかし、若頭と呼ばれるこの男は何もなかったように正面を見つめると静かに大股で歩き始めた。
ゴクリ
唾を飲み込む音があちこちから聞こえるほどの緊張感が通り過ぎた。
同時にホッという小さな溜息が聞こえてくるのも已むおえない状況だろう。
「若がお帰りでごせぇやす」
屋敷の玄関で声が響くと中から黒地に真っ赤な牡丹の描かれた和服姿で現れたのは、道明寺楓。
彼女もまた自らの意志でこの道を歩むことを選んだわけではなく女でありながらそこから逃れることも出来ず婿養子という形で現組長の要が跡目を継いだ。口には出さずとも楓こそが最大の実権を握っている事は周知の事実。
「司、帰ったの。話しがあるわ」
「あ?話ならさっさとここでしろよ」
すれ違い様に憎しみさえ隠すことなく睨みつけ乱暴に言葉を返す。
まったく気にも留めず奥の間に歩いていくのは姐さんの風格だろう。
いや、その姐さんに対してこれほどの態度がとれるのも司の他には存在しない。
異様な空気に玄関先では緊張の入り混じった空気が再び流れる。
スーッ襖が開かれると眺めのいい庭が見渡せ床の間に飾られた掛け軸。
そして、普通の家庭では見る事のない日本刀が飾られている和室へと二人は入り、それと同時に襖は静かに閉じられる。上座へと楓が座り、ドスッと乱暴にあぐらをかいたのは司だ。
「話しって何だよ」
自分とは、必要以上の会話さえもする気のない司に楓もまた優しい言葉などかける事もない。
「大河原組の滋さんとの縁談が決まったわ」
「あ?勝手な事言ってんじゃねぇぞ」
「全ては組の為。この家に生まれたあなたの宿命。黙って決められた通りに従う他に道など許されない事はよくおわかりでしょう」
「冗談じゃねぇぞ」
乱暴に立ち上がると足音を響かせながら畳の上を歩き
ダーンッと弾き飛ばす勢いで開けられた襖はその衝撃で廊下へと飛ばされた。
「待ちなさい」
楓からかけられた言葉にも立ち止まることなどこの男にはない。
廊下で控えていた男たちは憂さ晴らしのように殴られそれでも怒りが収まらない様子で長い廊下を歩くと東側にある自室のドアを開け
クソッ
着ていた上着を床へと叩きつけるとベッドの上で仰向けに寝転がる。
「牧野…」
拳を握り締め苦しそうに吐き出す名前。
こんな家にさえ生まれていなきゃお前との人生が俺にはあったんだろうか
お前も極道の娘だったら俺らは結ばれたんだろうか
瞼を閉じると自分に向かい笑顔を向けるつくしの顔が浮かび決して結ばれることのないその女の名前を何度となく呟く。
「牧野」「牧野…お前に逢いてぇ」「牧野…」
自分の身に起こる不幸を嘆くのか、何も出来ない無力さに嘆くのか気づけば一筋の涙が流れ左手の甲でそれを拭き取る。
怒りで熱くなった全身を鎮めようと起き上がり着ているシャツを乱暴に脱ぎ捨てる。
バスルームの鏡にうつるその背には荒々しい龍の刺青と護るよう抱かれているのは観音像。そして紛れもなく掘られた文字は最愛の女の名である つくし
一緒に生きることが出来ずとも、生涯お前だけを愛する
誓うように掘られた刺青は幾重にも手が込んだ美しさがあった。
誰にも見せず誰にも触れさせず自分だけのつくしを背に刻み何度も危機からも共に乗り越えて来た。例え背に掘られたつくしであっても傷ひとつつけねぇ。
時に自らを宥め時に励まし奮い立たせた。
「この背中のお前が今の俺を生かしてんだよ」
もうその手が自分の背に触れることがなくともその温もりさえも忘れることもない。
排水溝に渦を巻いて流れる水さえもこの家から離れ大海へと流れていくのか。
「俺と命がけで生きてくれるか」
自分の命などお前の為なら惜しくも何ともない。
だが、つくしを愛すればこそ命がけでなどと口にはできない。
「いや、冗談じゃねぇぞ」
シャワーを止めると濡れた躰のまま携帯を手にし、電話をかける。
「おい牧野」
「道明寺?ど…どうしたの」
「てめぇいいから腹括れ」
「は?」
「いいから腹括って家で待ってろ」
わけがわらないままでも数年ぶりに聞くその女はクスクス笑ってわかったと答える。
命がけなのは俺だけでいい。
お前は俺の腕の中で幸せになれ。
~Fin
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やっちゃいました。F4の極道
すみません全員極道デビューしていただきます
応援エネルギーお願いしますッ♪
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