イチブラ 24
「庭で散歩できるっていいよね」
「散歩なんてしねぇけどな」
「しなよ」
「お前が一緒の時ならな」
ロマンチックなんてものには程遠い会話だけど心臓はずっとドキドキしてた。
妙な緊張感で躓いたあたしには
「何でもねぇとこでこけるなよ」
笑いながらしっかりと支えてくれたその温もりと優しさがあたしを少し女の子にさせる。
「あたしの足は微妙な段差も感じるのよ」
そんな自分が恥ずかしくて言い返しても背中に回った道明寺の手を振りほどくことは選ばなかった。邸にはピッタリだけど道明寺にはまったくもって不似合いな真っ白いベンチに並んで座った。チラッとあたしの方をみて
「もうつけないのか」
そう言って鎖骨の間の窪み付近に触れる。
道明寺の指先が触れると躰がビクリと弾んだ。
その瞬間、悪いと道明寺はすぐに手を引っ込めあたしも顔に熱を持ったまま大丈夫と頷いた。この位置に揺れているべきもの、それは土星のネックレス。
「覚えてるんだ?」
「あぁ」
何となくそれ以上言葉が言えなくて自分の首元を指でなぞるのは、姿のないネックレスを探しているみたいだった。無言の時間に多少の気まずさを感じ始めた頃
「俺、お前をどれだけ泣かせたんだろうな」
あまり星は見えないけれど道明寺が夜空を見上げて言った。
「泣かないわよ」
「フッ… 泣かせたくねぇって思ってる俺が一番お前を泣かせて傷つけた。もう自分でも何でなんだか…まじでわかんねぇんだわ」
お願いやめてよ…
あたしの聞きたいのは道明寺のそんな声じゃない。
どんな顔をしているんだろうか?こんな近くにいるのに道明寺の顔も見れない。
「思い出したからもういいよ。最初はさ、今頃思い出してどうするんだろって本気で思った。残酷だなって思った。だけどやっぱり思い出したから今またこうやって話が出来るし、大人になったとこも見れたしね」
出来るだけ明るく応えた。
だって、ほんとによかったんだと思ってるから。
それだけは、わかってほしい。
「今でも思う、このまま誰も知らないとこにお前を連れ去りてぇって」
あたしはもうその言葉だけで十分だったんだと思う。
過去の痛みは道明寺の言葉で癒された。
じゃあ道明寺の痛みは何で癒されるんだろう。
あたしがまた道明寺をスキになること?
嫌いなんかじゃない。意識しまくるぐらい意識してる。
たぶんそれは素直になるとかならないとかそういう問題じゃなくて
過去の経験があたしにストップをかけるみたいだ。
この距離感は居心地の悪いものじゃない。
そして咎められるべきものでもないと思う。
だけどこの先は、あたしだけじゃなくあたしを守るために道明寺もまた傷つく。
波瀾万丈な人生を歩み過ぎると変な想像力が増して心に歯止めをかける。
道明寺を信じているから同じ痛みを与えたくない。
それが26歳のあたしのするべき選択だろう。
道明寺のポケットの携帯が鳴り続ける。
無視をしているので出るように言うと舌うちしながら電話に出た。
「あ?誰だそれ」
突然不機嫌な声を出した。
時々あたしの方をチラチラと見るのは、聞かせたくない話なんだろう。
その場を離れようとして立ち上がると
「牧野待て」
道明寺は勢いよくあたしの腕を掴むと電話を切り邸に向かって歩きだした。
「何?何があったの?」
「俺にもよくわかんねぇ」
「は?」
さっきまでとは大違いの様子ですたすたと歩く道明寺。
あたしは、足の長さが違うから小走りになりながら邸の中へついて行った。
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まだまだ小出しの乙女モード
いったい何があったんだ
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