07 四龍恋鎖 美作組若頭編
繁華街の煌めくネオン。その灯りに惹きつけられるように人々は集まる。
飲食店の多く入った雑居ビル、いかにも怪しそうな店構えをした飲み屋から高級感を醸し出す店、そして美を競うように写真が並べられるのは、女性も男性も変わりない。
風俗店はところ狭しと並びキャッチの男たちもしつこいぐらいに声をかけている。
ブランドのスーツを着ているがネクタイはせず金色のネックレスが開いた襟元から光る男。肩まで伸びた髪は艶やかで夜風で空気を含むとふわりとした動きをみせた。
女性たちは必ずと言っていいほど彼の姿を見つめ通り過ぎると漂う色香に振り返る。
一見するとホストにも見えるこの男は美作組 若頭 美作 あきら。
この辺りで商売をするものであれば、彼の顔も名前も知らないものはいない。
「あきらさんでしたか。どこのNo1ホストかと思いましたよ」
笑いながら出迎えるのは、高級クラブ カサブランカのマネージャーの冴木。
「人の顔を見るたびにそれかよ」
親し気に話すのは付き合いの長さ。いくらソフトに見える外見であってもその内にあるのは極道の顔。それに気づかず近づきすぎた男は洗礼を受ける事となる。誰でも近づけるようであって実はごく限られた人間にしか与えられない。
「あきらさんいらっしゃい」「あきらさーん」
女性たちはそれとは別。気持ちよく働かせる事で客から絞るとるだけ絞り取らせる。ライバル心を煽るように高級ブランデーを入れたり何人もの女性をテーブルへと呼び他の客たちの男の虚栄心を煽る為に利用できるものは何でも利用した。
ここへと足を運ぶ男たちにはそれなりのステイタスを持っている事も理解した上での事である。
同時に女たちのライバル意識にも火をつけ自分こそが一番の女になろうと思えば巧みに客から情報を引き出しあきらへと伝える。その汚いとも思える手法をこの男は実に鮮やかに使い女たちも利用されている事など気づきもしない。
「あきらさん、この間話した例の人なんだけど」
囁くように話す女の肩に腕をまわし引き寄せると唇は耳に触れるほどに近づけ
「何か聞きだせたか」
静かに頷くのを確認すると音が鳴るように耳に口づけを落とし
「ビンゴだったか」
低く囁きながら問いかけると潤んだ目で見つめ返す女は再び頷く。
肩に回っていた腕はいつしか腰へとうつり隙間がないほどに近づけ身体中の熱を起こすように撫で上げる。
「あぁんあきらさんったら」
扇情的な表情に変わると他の女たちをテーブルから移動させる。しなやかな指先が身体のラインを往復するたびに女の身体はしなりをみせ二人きりになったところで、たたみ込むように話しを聞き出す。身体の疼きが抑えられなくなっている女と違いあきらは、どこまでも冷静である。
人差し指で女の唇をなぞり離れがたいと伝えるような素振りをみせ仕方なく報告に組へ戻るということを女へと伝える。それがあくまでも自然な振る舞いで誘導されるものだから女も気づけば頷いている。
「リシャールでも入れてやって」
「うはっ、そんな大物でしたか」
「あぁ」
冴木と目配せをするとあきらは店を後にした。
界隈の店を監視するかのように瞳だけを動かしながら繁華街を歩く靴音。
目の前で女と男の争う姿が目に入る。
女はキャバ嬢、男は指名客というところか。
強引な男がその女の腕を強く掴んだ瞬間、女の顔が目に入る。
その刹那あきらの腕は、客の男の腕を掴みねじりあげる。
「あんた、女相手に何やってんだ」
「俺の女だ」
「勘違いすんな。お前は客だ」
男に掴まれた腕が痛いのかキャバ嬢は腕を摩りながらあきらの後ろへと隠れる。
「あんた、この人美作組の若頭よ」
身の安全を確保するとキャバ嬢はこの客は切ると決意した言葉がぶつけられる。
「な…な…んだ…」
嘘だと言えないのは、見かけと違って男の掴む腕の力の強さ。
そして、その瞳が向ける鋭い目つき。
「くそッ…どんなに連絡してきても…二度と来てやらねぇぞ」
精一杯の強がり。
「呼ぶか。バーカ」
一方女の方は、あきらの後ろで舌まで出す始末。
フッ
あきらはあまりの女の口ぶりに笑いながら捩じり上げていた男の腕を緩める。
解放された男は腕を庇うようにしながらヨロヨロとその場を去って行った。
「おい、桜子!お前な。呼ぶかバーカってガキか」
「だって、どうせもう借金だよあの男」
「怖い女」
「あんたの方が何倍も怖い男でしょうよ」
言い合う口とは裏腹にあきらの腕は赤くなった桜子の腕を労わるように撫でる。
「無茶すんなよ」
「あぁうん。今月風邪ひいて何日も店を休んだから、No1を競っててちょっと焦ったかも」
「手伝ってやろうか」
「冗談でしょ」
小悪魔的な笑顔を向けあきらの腹へ軽く拳を沈める。
「俺の腹に拳沈めんのはお前ぐらいだな」
女に向けるあきらの瞳も今までのどの時よりも優しく
「無理すんなよ」
言葉をかけながらドレスで露出している桜子の耳元から鎖骨までを指でなぞる。
「あきらもね」
言いながらその手をパチンと払いのけ店に向かって踵を返す桜子を見送った。
「愛してる」
振り向いた桜子からの言葉と投げキッス。
それを笑いながら掌でキャッチし自分の胸にポンポンとあてる。
誰も知らない若頭の顔。恋人の桜子だけが知り得るあきらの顔だろう。
だが、そこから離れ一歩踏み出せば闇夜を仕切る男へと戻り 美作あきらの靴音は今夜もネオン街を響かせている。
~Fin
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あきらくんのお相手はキャバ嬢の桜子でした
問題は総ちゃん…どんな若頭にしよう
応援エネルギーお願いしますッ♪
あと93話
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