10 従わないオトコ
「おはようございますお嬢様。お目覚めの時間でございます」
ん…
「お嬢様、お目覚めの時間でございます」
あと5分…
「お嬢様、お目覚めください」
あたしを眠りから引きずりだそうとする声を無視するように寝返りをうった。
「聞こえていてお起きになられないのか、乱暴に起こされてぇのかどっちだ」
いきなり枕が引っ張り取られあたしの顔はマットレスへとぶつかる。
うわぁ…
そうだった…そうだったよ。
あの夢だと思って笑った日の朝、笑いながら気づいていったんだわ。
身体がそこらじゅう痛いことを。
全身筋肉痛でカクカクとロボットみたいな動きだったのよ。
えぇ一日中…
両親に訴え出なかったのは、『従わせたいなら従え』この言葉にふつふつと闘争心がわいたからよ。従わせるのはあたしよ。あんたじゃない!
道明寺をにらみつける事から朝が始まるのもすでに日課になった。
「お茶を入れてまいりますので、すぐに仕度なさってください。すぐにです」
丁寧に言っているようで実は命令されている。
動き出さないとあたしのネグリジェの襟元を上へと引っ張り
「これで一気に脱げますがお手伝いいたしましょうか」
「へ…変態!早く部屋を出て行って」
横にある枕を素早く掴むと思いきり投げつけた。
だけど歩いていく道明寺の背中まで届かず無残に床に落ちた。
上条ぉぉぉ
あの静かで爽やかな朝の目覚めは何処へ行ってしまったの。
小鳥の囀りまで上条が連れていってしまったのかしら。
渋々起き上がりシャワーを浴びてワンピースに着替えるとソファーへと座る。
ノックの男が聞こえるとあたしの返事がなくてもドアが開く。
それを睨んでみたところで、応えないお前が悪いというあの目!ほんとイヤ。大キライ。
それでも淹れてくれる紅茶は格別に美味しい。実に美味しいんだ。
満足気に飲んでいると道明寺は黙ってドライヤーをコンセントに挿して濡れたままでいるあたしの髪を乾かしはじめる。最初の日は、筋肉痛で腕が上がらなくて止むおえず濡れたままでいた。
「風邪を召されますよ」
そう言って乾かしてくれたのが一番最初。
「髪ぐらいきちんと乾かされたらいかがですか」
毎日小言を言いながらドライヤーをかけてくれる。
その手つきが実に心地いい。乱暴な口と横暴な態度とは違ってとても優しい。
髪が乾くまでの数分間はお嬢様で良かったと思うほど至福の時間を与える。
そして「本当に綺麗な黒髪でいらっしゃる」
最後にこの言葉を言うときの道明寺の声がいい。
後ろからで姿が見えないというのがいい。
だからあたしは、道明寺に指示することもなくお願いすることもなく
濡れた髪のままソファーに座り淹れてくれた美味しい紅茶を飲みながら
髪を乾かしてもらう事に決めた。
これは、あたしの中で作戦勝ちと呼ぶ。
とりあえず1勝!
こうやって勝利を重ねれば快適な日常が戻る。
結果として従うのはあいつだ!
顔がにやけてしまう。
ティーカップを置こうと視線を窓から部屋の中へうつした時少し離れた位置に配置されているドレッサーの鏡が目に入った。そこには、にやけた顔のあたしが映りそれを見てにやけている道明寺と目が合った。
その瞬間、カーッと顔が赤くなったあたしに笑い出しそうになっていくのもべーと舌を出す道明寺の顔も映っていてカップを持つ手がわなわなと小刻みに震えた。
「本当に綺麗な黒髪でいらっしゃる」
今日も道明寺がそう言った時、にやけた自分が映るのが嫌で両手で顔を隠した。
もーーー最悪!
~Fin
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私の濡れた髪は…
暑いのでドライヤーというプロ執事から
扇風機という期間限定執事に変えました
応援エネルギーお願いしますッ♪
残り90話
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