幸せのセオリー 24
穏やかな朝食の時間を過ごしていると西門さんが入ってきた。それこそ遠慮もなく当然のように道明寺の隣、つまりはクレアの正面に座る。
「食事中だ」
「普通は遠慮するよね」
あたし達の意地悪い言葉さえも聞こえぬふりを貫く。ただ一心にクレアを見つめ微笑みを零すその顔にあたしの顔もにやつき始め、さらにあたしの顔を見た道明寺が察したようにプッと吹き出す。
「おい、牧野。クレアにあんま食わせんじゃねぇよ」
「煩い。ちゃんと軟らかいもの選んでるから」
「おい牧野、それでかいから」
「平気」
こういう時になって思うのは、女は弱いという意識が高まっていることだ。
庇護欲が過剰なほどに溢れている。
所作の綺麗なクレアといってもTPOで使い分けることはかわりなく、普段からあたしみたいに粗雑ではないにしても気の合うほど普通に生きる女の子だ。能ある鷹は実に上手に爪も素行も隠している。西門さんも道明寺も同じだ。
だがクレアの普段を知っているのにこの庇護欲の高まりは、されてる側は反応に困る。クレアもまさに今、反応に困っているようでさっきからしきりにあたしを肘でつつく。きっと西門さんは頑張っているクレアがわかるから庇護欲が高まり余分な波風をたてる結果を回避していたように思う。
大切過ぎる結果だと思うと今じゃないでしょという言葉は飲み込んでこれからに期待する。
「腹が減っては戦は出来ぬだよ」
「そうだよね」
「腹も身の内とはいうが食べられる時に食べな」
「もちろん。消化が良すぎてすぐにお腹がすく」
チラチラと前方に座る二人に視線を送り聞こえてくるブーイングを今度はあたし達が聞こえないふりで食事を進めた。
食事が終わったところでお茶を飲みながら
「ところで何しに来たの」
笑いながら言うあたしに西門さんは本気で嫌そうな顔をした。
「顔が腫れてるから今日の予定は変更になった」
その言葉には心配よりも一斉に笑い出す。
「どこの野蛮人に殴られたの」
「野獣だ野獣」
腫れの残る頬をさすりながらこれで手加減したっていうんだからなと不満顔をみせる。クレアが使用人さんに頼んだ頬を冷やすための氷嚢をそっと西門さんの頬にあて
「痛い?」
心配そうな声が聞こえると
「大丈夫」
たったそれだけの会話なのに、甘い囁きに聞こえるから不思議だ。でもそのあとで
「慰謝料たくさん請求出来るかな」
「金持ちの野獣だからな」
お茶を飲んでいたあたしたちも完全ににやけが止まらなくなった。
「感謝料を支払っていいぐれぇだろ」
「まぁな」
その会話で片付くのは、あたしやクレアが予想するよりも殴るという行為がさらに先を読んでいたからだ。西門さんは、お兄さんが茶道から離れ邸を出てからは連絡すらとっていなかったそうだ。それは西門さんだけでなく家族みんなが連絡すら取ることを禁じていた。
「兄貴もわかってるから連絡したところで電話もとらない」
吐き出すように語る西門さんはやはりどこか淋しそうに感じる。
「外科医だってことはわかった。勤務している病院もな。でも総二郎も秀一さんも顔を合わせる理由が必要ってわけだ」
大学病院なので整形外科もあるがまぁそのあたりは西門の名前を出せばどうにでもなるということだった。
「冷やすのやめた」
クスクスと笑いながらクレアが頬から氷嚢をはずし
「ダメなら、またあたしが入院してあげるから」
「おいおい」
二人のこういう冗談まじりの会話も久しぶりのようだった。
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総ちゃんも元気に復活
彼等に過保護にされるなら大歓迎よねぇ
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