幸せのセオリー 25
時計を見て立ち上がるとこれまた恒例のようにまだ平気だという道明寺を送りだし
まだいいという西門さんを腫れがひいたら理由がなくなるとクレアに送り出された。
「久しぶりに朝の気配を感じた」
「まだゆっくり横になってなよ」
「うん……。部屋に遊びにきてくれる?」
「あたしにはクレアの看病という大役があるからお稽古を休むのよ。ほんと仕方なくね」
「それは残念ね。なるべく回復を遅らせるわ」
病は気からというが、精神的なものから来ているクレアは、明るく楽しい時間を過ごすことが何よりの回復への近道だと思う。
顔色はやはり完全ではなく、だるそうにしている様子もみられるが
「空腹が原因じゃないかと思うのよ」
クレアらしい笑顔を向けて逆にあたしを気遣った。
スマホでゲームを競ったり思い出話に花を咲かせ
一緒に旅行へ行こうと盛り上がる。
あたしのNYでの日々が勉強に追われていたとはいえこういう時間の上に成り立っていたことをしみじみと感じる。絶えずクレアと過ごし一緒に眠る夜も多かった。
「ごめんね」
呟いた言葉に不思議そうな表情を浮かべ
「何がよ」
「毎日、辛くて淋しかったよね」
「ツクシ?辛いばっかりじゃないよ。お茶を覚えるのも多くの人との出会いも嫌々出席していたパーティーと違って新鮮で楽しかったしあたしに笑顔を向けてくれる人だっているの。クレアさんって話しかけてくれる人もいるの」
「そっか」
「そうだよ。日本語を覚えるから傷つくこともあったけど、わからない時の方が話してる言葉がみんな非難している気がして怖かった。だから一生懸命覚えてるのよ」
布団の上に置かれたクレアの手のひらをそっと握りながら
「頑張ったよね」
そう言ったあたしの額をクレアは人差し指でコツンと押した。
「ツクシ、あたしは可哀想なんかじゃないよ。幸せのために頑張れるんだから」
「うん」
「こうやってそれに挑むチャンスがあるだけでも幸せなんだよ」
あたしに向かって微笑むクレアは綺麗だと思った。
可哀想なんて思っちゃいけないんだと思った。
レノン家の令嬢であっても、西門さんとの未来に向かって挑んでいる一人の女性で今までの何倍も強くなろうとしている。あたしは、もっともっとクレアの力を信じてあげなければいけないと反省した。温室で育った花が全て弱いわけではない。外気へと晒されて全部が枯れてしまうわけでもない。頑張ろうとしているクレアの横で応援しているフリをして心配していただけのような気がしてもう反省だ。
あたしとクレアは、ひとつの出会いから始まったことでそれをきっかけにそれまでと異なった道を歩き出した。英語がろくに話せないあたしと日本語がわからないクレアだったから、お互いの表情から読み取る努力もした。もしかするとどちらかが堪能に話すことが出来たらあたし達の関係はもう少し薄っぺらだったかもしれない。NYに留まらずに日本へと戻っていたらメールでのやりとりぐらいだったようにも思う。いや、英語で書くことに悩みそれすら滞っていただろう。
NYに留まったからみんなが様子を見に立ち寄ってくれて
クレアと出会い西門さんとの恋が始まった。
そうすると……あれ…
元の正し方によっては、あたしが原因か?
いやいや、恋愛を始めたのはクレアと西門さんだ。
だからやっぱりどうしたって二人が頑張るしかないってことよとサイドテーブルに頬杖をつきながらクレアに微笑んだ。
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すべては私が原因です(笑)
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