幸せのセオリー 33
この邸の中にあたしのお願いの方を優先してくれる人はいない。
何もイジワルでそうしているわけではないのだが、ことの行方を思うと今は敵という存在にも近い。
鼻をつまんだまま洗面所から出るとテーブルの上にフードをかけた。
そしてスマホを手にベッドへと戻るとクレアにメールを送る。
唯一、あたしの考えを理解してくれる相手だ。
西門さんもまたそうする意味をわかってくれるだろう。
クレア、あたしのピンチで出来るだけ早く帰ってきてほしいんだけど何時ごろになる?
メールを送るとすぐに電話が鳴った。
「つくしどうしたの」
あたしは簡単に事情を話すとクレアはすぐにそれを理解し隣にいるらしい西門さんにそれを伝えていた。笑い声も聞こえたが
「これからすぐに帰る」
クレアの言葉にホッと息をついた。
使用人さんが様子を見にきたがまるで今から食べるかのようにフードに手を置きお茶を入れ替えてまいりますという言葉には、冷めてる方がいいとあまり説得力もなさそうな言葉を伝えた。
待ち人来たり
クレアの顔を見たときにどれほど嬉しかったか。何も言う前にクレアは、テーブルの上のフードカバーを外し
「キャッ大好物。もっと食べたい」
「この美味しさを知ってるから捨てることがどうしてもできない」
「当然よ」
クレアはあっという間にプリンを完食すると再びフードをかけそれを廊下にいる使用人さんに手渡したあと」
「緑茶だけもってきてください。あたしのプリンはあとで部屋に」
当然あるであろうクレアの分のプリンがここに運ばれることのないよう先手を打ってくれた。
「お医者様に見てもらった方がいいよ」
「薬飲んで横になってたら治るのよ」
「吐き気だけ?」
「うん」
「ツクシ、もしかするとそれって…」
「ん?」
「赤ちゃんじゃない?」
「!」
しばし無言になったのは、これまた当然身に覚えがあり過ぎる出来事で、頭を過るのはいつしたかって事じゃなくて、今日は何日かってことだ。
「総二郎さんが妊娠じゃないのかって言ってた」
「か…可能性は…高い。でも待って、慎重に事を運ばないとさらに大変なことになる」
クレアはクスクスと笑った。
「もし間違いだったら笑い話じゃすまないから」
それにはクレアも笑っていたが頷いてくれる。
「病院に行くだけでも、絶対に連絡が行くからそれは最後にしないと」
「検査薬って日本にもあるんでしょ」
「あるはず」
「あたしが買ってきてあげるよ」
何でもない事のようにクレアは言うが、まて、クレアと気づいた人が妊娠検査薬を買ったとリークしたり写真を撮ったらもっと大変な事になるんじゃないだろうか。
「総二郎さんに頼む?」
「それは余計に問題でしょ」
話していてもふとした瞬間に襲う吐き気に再びトイレへとかけこんだ。
「ツクシ、あのコンビニにの近くにドラッグストアがあったよね?漢字とか読めないからどんなのか写真で教えて」
クレアが目撃されないことを願うようにあたしはスマホを弄りクレアは変装とも思えるNY時代のようなラフな学生スタイルに着替えて戻ってきた。
「お願いだから気を付けてよ」
「妊娠検査薬もって事故に遭えない」
帽子の中にブロンドの髪をしまうとスマホに映し出された何種類かの検査薬を見て
「いってきます」
大冒険でも行くようにクレアは裏口に向かっていった。
クレアを待っている間は、吐き気すら忘れるほど心配で自分で行った方がよかった気さえした。だから
「ただいま」
白いナイロンの袋を高く上にあげたクレアの姿が見えたときには涙が出るぐらい嬉しかった。
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クレアと総ちゃんが買いに行ったら
それはそれで面白いかも(笑)
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