幸せのセオリー 47
クレアとあたしのどちらもが心が軽いというのは、考えてみると初めてかもしれない。NYにいた頃はあたしが戦っていて、昨日まではクレアがその渦中だ。クレアの場合はまだ解決には至っていないが、やはりホームグラウンドでの勝負の方が何倍も気持ちが楽だろう。
軽やかな足取りで西門邸へと出かけていく様子に、お腹の牧野の何よりだよね。そう思わない?と一人会話をする。
数日後に道明寺が出張から戻ると
「どこから話そうか」
鼻息荒く待ち構えていたのに
「何が?」
「何がってクレアたちのこと」
「解決したってメールきてた」
「そうなのよ。何か聞きたいことない?」
「ねぇな」
思わず、えっと驚いてしまうぐらい話し合いの内容までは不要らしい。
「あいつがどう話したかはしらねぇけどみんなで相談しただろうが」
「そうだけどさ」
「結果としてうまくいった。それでいい」
「説明しようと思って予習までしたのに」
頬を膨らませるあたしを道明寺は笑って見つめ結果がわかれば過程は想像できるといった。
「お前がまたとんでもなく大胆な発言をしてきたんじゃねえかってこともな」
道明寺に言われ、慌ててそんなことあるわけないと顔をそむけた。
別に悪いことをしたわけじゃない。結果オーライだと思う。だけど立ち話でするような話じゃないと言われたことを思うとまったくもってその通りで実際に家族の繋がりが戻ったことで察してくれたらいいなと思う。
物事というのは海の上を漂う帆船のように無風の時には進むことすら出来ない。進んだようであってもまた引き戻されその付近での停滞が続く。
だがひとたび風が吹き始めると船上に大きく張られた帆いっぱいに風を取り込み進み始める。風向きで舵をとり方向を定めた方へと進ませるのも腕次第だ。舗装された道路と違い波の状態や潮の流れで大きく迂回をしたり進入角度を調整も必要だろう。
今まさにクレアたちの問題も風をうけ大きく動き出した。たどりつく港はどこだろう。その舵取りは西門さんでありメイトとなるのがクレアだ。道明寺はフック船長あたり?などと一人笑ってしまった。
すっかり大きくなったお腹を持て余しながら運動とばかりに邸の中を歩いていると少しばかりお腹の張りが強くなったように感じた。
これまでにも時折お腹に張りを感じることはあった。とくに臨月に入ってからは、出産の練習みたいなものよと言われるぐらいグッと強い張りを感じることもあった。痛みはないが、自分でも驚くほどの強い張りだったので身体が緊張を覚える。
「部屋に戻った方がいいとか?」
すぐに生まれるわけじゃないとわかっていても、初めての事で緊張が走る。
気にしすぎなのか、またもグーッとした張りを感じた。
「じ…陣痛?」
だが気のせいだったのかと思うほどその張りはすぐに治まり、自分の一言が騒ぎを起こすかを知っているからオロオロした気持ちも隠すように部屋へと戻った。
臨月に入ってからというもの、毎日毎日挨拶代わりのように今日か今日かと道明寺に聞かれている。だから誤報など恐ろしくてたまらない。
そう。間違いなく陣痛がきたという一言であいつはすべての仕事を放りだしてかけつけるだろう。例え時間がかかるといっても、病院に入ってからといってもすぐにあたしの元へ来てしまうだろう。
あたしも初めての出産で不安もあるが、もう生まれるか?まだか?まだか?ずっと聞かれ続けるのも憂鬱だ。もっと確信が持てるまで黙っておこう。自分のことでいっぱいいっぱいで道明寺を宥める余裕すらないだろう。
煩いと久しぶりに拳を奮ってしまいそうな気もする。間違っても初めて見たパパの姿が顔に痣という事態を避けたくそしてそれがママの作り出したものだということは避けたいと本気で思った。
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止まっちゃってごめんなさい。
いよいよ出産か
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