幸せのセオリー 48
くるかくるかとソファーで待機をしているがあれからお腹の張りも痛みもない。
「危ないとこだった」
思わずつぶやいてしまうほどあたし自身が緊張していた。
出産もそうだが、いつ生まれるよ警報を発令するかって問題だ。ギリギリまで黙っていようと思うがあたしが黙っていても使用人さんから連絡がいく恐れがある。そこのとこを、産むあたしの気持ちを尊重ということで真剣にお願いしたいところだ。やれやれと再びソファーから立ち上がりお茶でもお願いしようかと思ったところでまたも襲った強い張り。心なしか若干痛い。
お腹が張っている間は動くことも出来ない。
「生まれる?これ陣痛?」
思わずお腹の牧野に問いかけるが当然ながら返事はない。
なんだか不安になって部屋を出るとタマさんの部屋へ向かった。誰かそばにいてくれるだけで安心だ。
「タマさん」
「どうしたつくし」
大きくなったあたしのお腹をいつものように撫でると座布団の上へ座るのに手を貸してもらうありさまだ。
「何かお腹が張って…陣痛かなとか思って」
「間隔はどのぐらいだ」
「あぁ測ってないや」
今しがたあったことを伝えここから時間を測ることにした。
「どっちにしろまだまだだろ」
「そうですよね」
「坊ちゃんには連絡するかい」
「いやぁ」
あたしが顔をしかめると笑いながら
「病院に行く頃でいいね」
「十分です」
タマさんもどうなるかはわかりきったことなので大きく頷いていた。一応あたしに確認したのは、不安でそばにいて欲しいと思っているかという確認のようだ。
「どのぐらい痛いのかな」
「坊ちゃんが憎くて仕方なくなるぐらいだろ」
「それ、過去には多々あった」
笑いながら入れていただいたお茶をゴクリ。
「大奥様の時は」
そう言って道明寺のお母さんが出産の折の様子を話してくれた。
「どんな時であっても自分の弱っているところはお見せにならないね」
聞いた瞬間、聞かなきゃよかったと思った。どれほどの痛みか経験がない。騒ぐつもりはないが、テレビで知る限りは痛い痛いと声を挙げる姿の方が記憶にある。痛くないふりが出来る程度のものであればいいが不可能ということもある。
だんだん不安そうな顔になっていくあたしに
「案ずるより産むがやすしというだろ」
「事実確認しなきゃ」
ボソッと答えたがその言葉があるということは、きっとそうなんだろう。途中でやめたということが出来ないのだから何が何でも乗り切るしかない。
「痛ッ」
話しているとまたお腹が痛みだした。間違いない。これは陣痛だ。
痛みが治まるのを見計らったようにタマさんが
「まだ30分以上あるから今のうちにお風呂にでも入っておいで。時間みてあんたのとこにあたしが行ってやるから」
言われた言葉に安心して手を借りて立ち上がると部屋に戻りお風呂へと入った。素っ裸で痛みと格闘というのは避けたかったから気持ち急ぎめでお風呂に入り上がると待っていてくれたタマさんが濡れた髪の毛を乾かしてくれた。
陣痛の間隔が短くなればなるほど痛みが強くなってくる。身動きひとつ出来ない状態でひたすらそれが過ぎるのを待つ感じだ。
15分を切ったあたりで確認の連絡を入れ病院へと向かうことになった。スマホで道明寺にメールをいれると待機してたのかと思う速さで電話が鳴り
「すぐに戻るから邸で待てるか」
「うん」
やっぱり道明寺の声は何よりもあたしに安心をくれた。
「まだ何時間も産まれないから急ぎ過ぎないで」
「あぁ。すぐ帰るからな。急ぐから待ってろ」
会話が成立しているようでどこか成立していないような。
戦い慣れしているあたしたちでも出産というのは、初体験に向けて少しばかりテンパっている感じがした。
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二次ではつくしちゃんはいったい
何回出産してるんだろ
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